ポストを開けたら、見知らぬ「土地家屋調査士」や「測量登記事務所」から手紙が入っていた。
内容は「隣の土地を測量するので、境界の確認に立ち会ってほしい」といったお願いのようだけど、それよりも先に、こんな疑問や不安を感じたのではないでしょうか。
「私はその土地に住んだこともないし、何度も引っ越しをしている。
それなのに、なぜ赤の他人が私の『今の住所』を知っているの?」
どこからか個人情報が漏れているのではないか、あるいは探偵や怪しい名簿業者を使われたのではないかと、警戒されるのは当然のことだと思います。
ですが、どうかご安心ください。個人情報が不法に漏洩したわけではありません。
私たち土地家屋調査士は、皆さまの大切な財産である土地の境界を正しく守るため、法律に基づいた正当な手続きを踏んで、役所から「戸籍」や「住民票」を取得する権限を持っています。
このコラムでは、突然の手紙に驚かれている方へ向けて、私たちがどのような公的手続きを経てあなたの現住所へたどり着いたのか。
その裏側にある「職務上請求」という制度と、厳重な個人情報の取り扱いについて、丁寧に解説します。
第1章:そもそも、なぜあなたを探し出す必要があったのか?
具体的な住所の調べ方をお話しする前に、まず「なぜ私たちが、時間と労力をかけてまで隣の土地の所有者様(あなた)を探さなければならないのか」という点からご説明させてください。
例えば、あなたのお隣さんが「土地を売りたい」あるいは「土地を分割して子どもに譲りたい」と考えたとします。
これらの手続きを進めるためには、大前提として「隣の土地との境界線がどこにあるか」をハッキリさせる(境界を確認する)必要があります。
🤝 境界を確認するためには「お隣様の承諾」が絶対に必要です
境界線は、自分だけでなくお隣様の土地の面積にも直結する非常にデリケートなものです。そのため、いくら測量のプロである私たちが図面を作っても、隣の土地の所有者様にも直接確認していただく必要があります。
ところが、法務局で取得できる「不動産の登記簿」を見ても、所有者の住所が数十年も前のまま放置されていることは珍しくありません。
「昭和の時代にひいおじいちゃんが買った時の住所」のままになっていれば、当然そこに手紙を送っても宛先不明で戻ってきてしまいます。
お隣の所有者様と連絡が取れない限り、依頼主の手続きは完全にストップしてしまいます。
だからこそ、私たちは責任を持って「現在の正確な住所」を追跡する必要があるのです。
第2章:他人の戸籍を取れる「職務上請求」という公的な制度
他人の戸籍や住民票というのは、究極の個人情報です。
「お隣さんの今の住所を知りたいから」と一般の方が市役所の窓口に行っても、絶対に教えてはくれません。
しかし、私たち土地家屋調査士や、弁護士、司法書士といった一部の国家資格者には、「職務上請求(しょくむじょうせいきゅう)」という特別な権限が法律で認められています。
📜 職務上請求とは?
依頼された正当な業務(不動産の登記や境界の調査など)を行う上でどうしても必要な場合に限り、本人の委任状がなくても、役所に対して第三者の戸籍謄本や住民票などを請求できる法的な制度です。(戸籍法および住民基本台帳法に基づきます)
土地家屋調査士は「不動産に関する権利の明確化に寄与し、もって国民生活の安定と向上に資する」という公益性の高い使命を帯びています。
その業務をまっとうするために、例外としてこの権限が与えられているのです。
第3章:古い登記簿から「今の住所」にたどり着くまでの道のり
では、何十年も前の古い住所や、亡くなった方の名前から、どのようにして「あなたが今住んでいる場所」を探し当てたのでしょうか。
探偵のような裏ワザを使っているわけではなく、役所で取れる公的な書類をパズルのようにつなぎ合わせていく、非常に地道なプロセスです。実際の調査は、主に次のような流れで進みます。
法務局で「不動産登記簿」を取る
まずは法務局で隣の土地の登記簿を取り、そこに書かれている所有者の氏名と住所を確認します。「昭和50年にこの住所で登記されているな」という出発点がここで分かります。
「戸籍の附票」や「戸籍謄本」を請求する
古い時代の登記簿では、記載されている住所が「本籍地」と同じであるケースが非常に多くあります。そのため、私たちはまず役所へ「戸籍の附票(こせきのふひょう)」や「戸籍謄本」を職務上請求します。
戸籍の附票という書類には「その戸籍に入ってから現在までの、すべての住所履歴」が記録されています。これを使えば、その後どれだけ引っ越しを繰り返していても、最新の現住所を一気に割り出すことができるのです。他の都道府県に引っ越しをすると、その戸籍は閉鎖され新しい戸籍が当該都道府県にて調製されます。その場合は、新しい住所を管轄する役所宛に、同様の請求を行います。
すでに亡くなられている場合は「相続人調査」へ
戸籍を取得した結果、登記簿上の所有者様がすでに亡くなられていることが判明するケースも多々あります。その場合はそのままでは境界確認ができないため、戸籍をさらにさかのぼって取得し、配偶者やお子様などの「法定相続人」を全員特定します。そして、特定した相続人の方々の戸籍の附票を取り、皆さまの現住所へお手紙をお送りします。
(補足)本籍地が分からない場合は「住民票の除票」から
もし登記簿の住所が本籍地と違っていた場合は、その住所の市役所へ「住民票の除票(過去の住民票)」を請求し、そこに記載されている「本籍地」や「次の引っ越し先」の情報を手がかりにして、少しずつ現在の情報をたぐり寄せていきます。
このように、法務局の登記情報からスタートし、役所の公的な書類(とくに戸籍の附票)の糸をたぐり寄せることで、遠く離れた場所にお住まいの所有者様や、面識のない相続人の方のところへたどり着いているというわけなのです。
第4章:個人情報は本当に守られている?(不正ができない仕組み)
「法律で認められているとはいえ、他人の住所や戸籍をそんな風に調べられるなんて怖い」と感じられるのも無理はありません。
ですが、この「職務上請求」は、私たちが自分たちの都合で自由気ままに使えるような甘いものではありません。
制度の悪用を徹底的に防ぐため、次のような非常に厳しいルールと罰則のもとで運用されています。
① 専用の「統一用紙」と帳簿によるシビアな管理
請求に使う用紙は、専用の「統一用紙」のみです。一枚一枚の通し番号で「どの調査士が購入したか」が連合会で管理され、調査士自身も「いつ・誰の情報を・何のために取得したか」を専用の帳簿(職務上請求書作成簿)に記録する厳格な義務を負っています。
② 厳しい使用制限と定期的な監査
今現在受任している業務(測量や境界確認など)に直接関係のない人の情報を取ることは一切できません。また、請求書の控えと帳簿は長期間の保存が義務付けられており、所属する土地家屋調査士会から「本当に正当な目的で使っているか」の監査を受けることがあります。
③ 資格剥奪や逮捕に直結する重い罰則
業務上知り得た他人の秘密を漏らすことは、法律で固く禁じられています。万が一、職務上請求を不正に使って個人の情報を他人に漏らしたりすれば、資格の剥奪(業務禁止処分)はもちろんのこと、刑事罰に処せられ逮捕されます。私たちも自分の一生を棒に振るようなリスクは絶対に犯しません。
このように、国家資格者としての重い責任と倫理観を持ち、皆さまの個人情報を厳重に保護した上で、本当に必要な業務の範囲内でのみ制度を利用していることをご理解いただければ幸いです。
第5章:もし手紙が届いたら、どう対応すればいい?
「見知らぬところからの手紙だから」と、不信感からそのままゴミ箱に捨ててしまったり、無視してしまったりする方も少なくありません。
ですが、土地家屋調査士からの「境界立ち会いのお願い」の手紙は、決して怪しい勧誘や詐欺ではありません。
むしろ、ご自身の財産(土地の境界)をハッキリさせ、将来子どもや孫の代でのトラブル(越境問題など)を未然に防ぐための、非常に良い機会でもあるのです。
隣の土地の測量に伴う境界確認であれば、原則として測量の費用はお隣さんが負担してくれます。
つまり、ご自身は費用を負担することなく、隣との境界を専門家の立ち会いのもとで明確にできるという大きなメリットがあります。
✅ お手元に手紙が届いた方へのお願い
- まずは、手紙に書かれている内容(どこの土地についての件か)をご確認ください。
- 身に覚えのない場所であっても、「ご自身のご両親や祖父母の名義のままになっている土地(相続財産)」である可能性が高いです。放置している土地の現状を知るためにも、一度お電話などでご連絡をいただけますと大変助かります。
- 「遠方に住んでいて現地に行けない」「足腰が悪くて立ち会えない」という場合でもご安心ください。図面や現地の写真を郵送でやり取りするなど、できる限りご負担の少ない方法をご提案させていただきます。
もし、「本当に実在する事務所なのか不安だ」と思われた場合は、「日本土地家屋調査士会連合会」のホームページにある『土地家屋調査士検索』で名前を調べてみてください。正規の国家資格者として登録されていることが確認いただけます。
おわりに:適正な手続きで、安心できる土地管理を
突然の手紙でご不安にさせてしまうことは、私たち実務家としても本当に心苦しく思っております。
しかし、これまでお話ししてきたように、私たちが皆さまの現住所をお調べしているのは、適正な測量を行い、不動産の権利を正しく守るという、法律で定められた使命を果たすためなのです。
愛媛県松山市を中心に業務を行っている「KEY測量登記事務所」では、隣接所有者様へお手紙をお送りする際や、現地での立ち会いをお願いする際、常に丁寧なご説明と、個々のご事情に寄り添った対応を一番に心がけております。
もし当事務所からの手紙を受け取られた方、あるいは「実家の土地の境界が分からないので自分も専門家に相談したい」とお考えの方は、どうぞ警戒なさらず、お気軽にご連絡ください。皆さまの不安を取り除き、誠心誠意サポートさせていただきます。